カフェで朗読 vol.16 「本読みの時間」 〜memories〜

2009年10月3日(土)

大阪・中崎 Common cafe

 

今回のメンバーは


1年ぶりです。早川丈二

今回は出演者。濱中香衣

レギュラーです。土肥順一


初登場。橋本沙耶

初登場。酒井孝史


甲斐祐子

アーンド

写真撮影(と雑用)・ハラダ

カフェ太陽の塔

で、お届けしました。


看板書きは香衣ちゃんです。


おなじみコモンカフェ。

行楽日和でしたねー。

たくさんのご来店、ありがとうございました。


前説中。

香衣ちゃんはお料理の出来上がり待ち(接客中)

太陽の塔のバイトのお姉さんがひそかにカメラ目線?


それでは

そろそろはじめましょうかねー。


一話目

「真夜中のタクシー」

ジュニアが店を辞めてしまうのだ という話をきいたのは、

街の空気が暖かくなり始めたころだった。

「疲れちゃったんだ、ホントに俺」

人は必ずどこかで何かを諦めなくてはいけないもので、「したいこと」と「しなければいけないこと」が全面的に一致する人間なんていないと思う。

だからその食い違いを埋め合わせるために、諦めるとか我慢するとかしなくてはならなくなる。

ジュニアは店を辞めること自体が悲しかったのではなく、

自分の中での「したいこと」の代償として、何かしらでカバーできる部分より諦めなければならない部分の方が年々大きくなってしまう。

そのことが悲しかったのだろう。

この街で、ジュニアとして暮らしてきたいくばくかの時間。

彼はそれに挨拶を投げて、また違うところで違う自分になって暮らしていくのかもしれない。


お客さんの聴き方もいろいろです。

案外見られてますね、私たち。


二話目

「ショートカット」 (鷺沢萠)

付き合い始めて半年以上、この頃武雄は口癖のように

「髪を伸ばせ」と晶子に言う。

髪を伸ばしていたのは小学生の頃

松原先生は5年生の時の担任だった。

5年生の夏休みの校内合宿での事だ。

 

「ドキドキしてますね」

 

昔の話だ。

それなのに何故か、髪を伸ばすことを晶子は躊躇する。

年が空ければ成人式だ。

髪を伸ばしたら、武雄は喜ぶだろうか。

成人式までに結えるくらいの長さまで伸びるだろうか、とぼんやり考えていた。


土肥さんの迫真の台詞まわしに聴き入る酒井君。

 

 

怖かったよねー、エロかったよねー。

 

 

 

気になる人は本編を読んでみよう。w

(鷺沢萠著 『F―落第生』 角川文庫より)


三話目

「灯りの下に」

もしわたしが突然いなくなってしまっても、誰も気づかないかもしれない。

誰がわたしをいちばんよく知っているのだろう。

12時近いというのに、

タクシーの窓から見える灯りは結構たくさんあった。

闇の中に点された灯りの数だけ、誰かがいる。

 

「これから仕事?」

タクシーの運転手が口を開いた。

タクシーというのは不思議な空間だ。

私は彼のことを知らないし、彼も私のことを知らない。

それなのに、いくばくかの時間をひとつの車の中ですごす。

「楽しいことなんて、なんにもねえもの」

その言葉は、

おそらく彼自身のありったけの本音だったのだろう。

大切なのは、わたしが誰かを知ってるということだ。

誰かがわたしを知っているということだ。

知るということさえ努力の問題だ。

「判る」については尚更だ。

偶然の繰り返しで判ることなどない。

覚えていれば、大丈夫なのだと思う。

触れたひとや物に対する感心さえ失わずにいれば、

少なくとも覚えていることはできる。

タクシーの窓から見えた灯りの数だけ、人は暮らしている。

様々な灯りの下に、いろんな奴がいる。


四話目

「朝日が向かっています」 (重松清)

脚色 甲斐祐子

九州。

日本の西端に近いこの街で暮らし始めて一年になる。

不惑を過ぎての単身赴任である。

「都落ち、ですよね」

読み物作家のSは小さくうなづいた。

「一番きつかったのは、いつ頃ですか?」

「秋の終わりでしたね」

東京で生まれ育った私にとって

九州はまったくの未知の土地だった。

「ここ、東京よりずっと西にあるでしょう。朝が遅いんです。

目覚まし時計で起きてもまだ外は暗いんです。」

独りでしたたか酔った私は、東京に電話をかけた。

妻に愚痴をこぼした。

「奥さんは何ておっしゃってました?」

「相槌をうつだけで、たいしたことは言わなかったと思いますよ、

電話では」

長電話をした翌朝、まだ外が暗い頃、ファックスが届いた。

カミさんから。

 

 

「朝日が、いま、そっちに向かいました」

 

 

ちょうど東京は、夜明けの時間だった。

重松清作 「朝日が向かっています」は『君へ。−つたえたい気持ち三十七話−』 (メディアファクトリー)収録


五話目

「Two Of Us」

just two of us......わたしは口ずさみながらハンドルを握っていた。

この曲を、やっぱりこの道を走りながら聴いたのは、もうかなり前のことになる。

部屋から出てきたジュニアは

「驚くなよ、ゼッタイ驚くなよ」

と念を押した。

けれどジュニアの忠告虚しく、

わたしは開口一番

「ふえ〜」

と、情けない声をあげた。

ジュニアの部屋には、いるはずのない

シンとリョーコがいた。

簡単にいえば、

二人は「別れた恋人同士」だった。

結局二人はきちんと別れることができなかった。

まわりのすべてをなぎ倒す様なことになるのは覚悟で、それでもやっぱり「ふたりで」いることしかできないのだ。

「情けないけど、こういう風になっちゃったこと自体は」

「大抵のことはさ、何とかなると思ってれば何とかなっちゃうもんだぜ」

そう言ってジュニアは笑った。

 

それが嘘であることはジュニアが一番知っていて

嘘と知りながら言っているということを、

たぶんみんなが知っている。

口をついて外にでてくる言葉なんて、実際に考えたり思ったりしていることの何万分の一にしかすぎない。

言葉になってでてくるものは小さな小さな点だ。

だから、思ったり感じたりした者の勝ちだ。

忘れられなかった者の勝ちだ。


「真夜中のタクシー」・「灯りの下に」・「Two Of Us」は、鷺沢萠著『愛してる』 (角川文庫)収録


前半終了。

今回のメニューは

タコライス

トロサーモン丼

ロコモコ丼

 

ベイクドチーズケーキ

ガトーショコラ

生チョコタルト

ミックスナッツ

エビチップス

ポテトフライ


さてさて、

後半始めましょうかー


六話目

「ゆっくりさよなら」 (大崎知仁)

 

まいったな、ぜんぜんわかんねーや。

北野修はもうかれこれ30分悪戦苦闘していた。

便座カバーの取り付けに。

 

 

コガちゃんが家を出て行って1週間。

殺風景な部屋をようやく落ち着いて見られるようになってきた。

「北野君、今いい?」

コガちゃんに

離婚を切り出されたのは

1ヶ月前の日曜日だった。

1週間ぶりの再会。

二人で携帯ショップへ。

 

「家族割り解約したいんですけど」

「寂しく、ない?」

「すっげー寂しいよ」

冗談めかして、

めかしたつもりで

言った。

「好きな人、みつけたら?」

今度はコガちゃんが

冗談めかして言った。

 

 

「無茶言うなよ」

「急がなくていいんじゃないかな」

 

ゆっくりでいいかなって、思ってるんだ。

離婚届がコガちゃんの手元にある間

細い糸だけど、二人はまだ繋がっている。

 

そう考えると、どこかほっとする。

「なんせまだ、コガちゃんがいないと便座カバーひとつまともにつけらんないダメ男だから」

「ネットで検索したら?つけ方」

「便座カバー・つけ方、で打ち込むの?」

「そう」

 

二人で笑った。

「ぶっちゃけ、まだ好きなんだろ、奥さんのこと」

「好きにきまってるだろ」

即答した。

 

「でも、別れるんだ」

「うん、そうなる」

「わかんねえ」

同僚はおおげさに首を振った。

「北野さん」

社内でもかわいいと評判の女子だった。

おそらくは、修に好意寄せている。

 

「好きなひとみつけたら?」

コガちゃんの声がよみがえる。

 

どうやら、便座カバーだけじゃないらしい。

恋のやり方も、だ。

忘れてしまっているようだ。

離婚届けの証人欄が埋まった、とコガちゃんから電話があったのは、修が予想していたよりも、少し遅いタイミングだった。

「私ひとりでもだせるけど・・・」

 

「行けるとしたら木曜日かな・・・」

 

「木曜日にしとこうか」

コガちゃんは間をおかずにそう返した。

ひょっとしたら・・・・・コガちゃんもゆっくりがいいのかもしれない。

木曜日、コガちゃんに会える。

電話を切った後、修の心は浮き立っていた。

 

大崎知仁作 「ゆっくりさよなら」は『オトナの片思い』 (ハルキ文庫)収録


七話目

「絹婚式」 (連城三紀彦)

デパートを出たところで、祐子はふと後悔した。

デパートの特選売り場で買った真珠のついたキーホルダー。

今日でちょうど12年になる結婚生活。

夫への贈り物を買った帰りだった。

前方から夫が歩いてくる。

夫は

祐子とすれ違ったことに

気づかないほど

女と

楽しそうに笑いあっていた。

「後で部屋の鍵を渡すから」

女の声が

確かにそう聞こえた。

夫の小銭入れの中にその鍵は入れられていた。

小さなピンクのリボンが結ばれていた。

 

「ひどいわ、

私、浮気の手助けのために

結婚記念日の贈り物を買ったようなものだわ」

 

沈黙しか返ってこない。

翌日、夫の出張先から速達が届いた。

封を開けると、問題の鍵がこぼれだした。

ピンクのリボンを飾ったまま・・・・・。

『結婚記念日を忘れていたとは言え、

偶然にもおととい僕は君にプレゼントを贈っている』

 

手紙はそんなふうに始まっていた。

すれ違い続けた夫婦の気持ちが一本の鍵を要に結ばれてゆく(・・・かもしれない)物語。

連城三紀彦作 「絹婚式」は『銀座24の物語』(2004.12 文春文庫)に収録。

なかなかのどんでん返しなので読んでみましょう。


八話目

『今日、ここにたどり着くまでに』 (角田光代)

仕事は二日前に終わっている。

Kというこの街に洋子は13年前に1度来たことがある。

ひとりでバーに入る女にはなるまいと思っていたのは3年前までで、

ひとりでレストランに入る女にはなるまいと思っていたのは10年前までだ。

 

最近、ようやくわかった。

 

自分はどうやら、そんなにしおらしい女じゃなかった。

今たまたまいるようにみえるこの場所が自分が今まで目指して歩いてきた場所そのものなのだ。

彼と別れたのは合わなかったからではない、違う場所を目指して歩き始めていたからだ。

父親になった昔の恋人からのメール。

「相変わらず前進しているんだね。

僕もいつか、この子と旅をしてみたいです」

ぼやけたようなちいさな赤ちゃんの写真に見入って、洋子は思う。

 

生まれたばかりのこの命も、

きっと、

もう自分の目指す場所を見据えているんだ。

 


昼公演終了。

沙耶ちゃん、どーしたの?

土肥さんが何か言いたげです。


ちなみに昼公演と夜公演の合間は、

ハラダのシャツ着たジョージくん

土肥さんのポーズが・・・

コメントは差し控えさせていただきます。
一応まじめなところもみせておこう。

有意義なひとときでした。


さて夜公演は、ランダムでお楽しみください。



おまけ

キッカケ待ち(暗転係)

壁と戦うジョージ。

昼・夜どっちもエンディング決まらなかったよねー。


ともあれ、

皆様、ご来店ありがとうございました。

 

次回公演は2010年1月24日(日)です。

皆様のお越しをお待ちしております。

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